- 相続した土地を売るとき、税金はどうなるのか
- 相続した土地の売却に関わる2つの主な特例
- 譲渡所得税の計算の仕組み
相続した土地を売るとき、税金はどうなるのか

親や祖父母から土地を相続したとき、「売却すると税金がどのくらいかかるのか」「何か使える制度はないか」と気になる方は多いはずです。相続した土地の売却には、通常の不動産売却とは異なる税制上の特例が複数存在します。これらを知らずに売却を進めると、本来よりも多くの税負担を負う可能性があります。
この記事では、相続した土地を売却する際に関係する主な特例制度の概要、売却にかかる費用の目安、そして判断の際に押さえておきたい考え方の基本を整理します。個別の物件や状況によって判断は大きく異なりますので、具体的な税額計算や申告手続きについては、税務署や税理士への確認を前提としてご覧ください。
この記事でわかること
- 相続した土地の売却に関わる主な特例制度の概要
- 譲渡所得税の計算の仕組みと税率の基本
- 売却にかかる費用の目安と内訳
- 特例を活用するうえで注意すべきポイント
- 相続登記の義務化など、売却前に確認すべき手続き
相続した土地の売却に関わる2つの主な特例
相続した土地の売却には、大きく分けて2つの特例制度が関係します。一つは「取得費加算の特例」、もう一つは「相続空き家の3,000万円特別控除」です。どちらも適用条件と期限が定められており、要件を満たさない場合は利用できません。
取得費加算の特例とは
相続によって取得した土地を売却する場合、相続時に支払った相続税の一部を「取得費」に加算できる制度があります[1]。これを「相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」(取得費加算の特例)と呼びます。
通常、土地を売却する際の譲渡所得は「売却価格 −(取得費 + 譲渡費用)」で計算されます。取得費が大きくなれば、それだけ課税対象となる譲渡所得が小さくなるため、税負担を抑える効果があります。相続税を支払った分だけ取得費に上乗せできるというのが、この特例の仕組みです。
適用のためには、相続開始のあった日の翌日から起算して3年10ヶ月以内に売却を完了させる必要があります[1]。また、相続税の申告が前提となるため、相続税の課税対象にならなかったケースでは利用できません。
相続空き家の3,000万円特別控除とは
被相続人(亡くなった方)が一人で居住していた家屋と、その敷地を相続した場合、一定の要件を満たすと譲渡所得から最大3,000万円を控除できる制度があります。正式名称は「被相続人の居住用財産に係る譲渡所得の特別控除」です。
主な適用条件は以下のとおりです。
- 昭和56年5月31日以前に建築された家屋(旧耐震基準)であること
- 相続開始の直前において被相続人が一人で居住していたこと(老人ホーム等への入所前に居住していた場合も一定の条件で対象)
- 相続後、売却時まで事業・貸付・居住の用に供されていないこと
- 売却の際、家屋を耐震基準に適合させるリフォームをして売却するか、または家屋を取り壊して更地として売却すること
- 売却価格が1億円以下であること
- 売却先が親族等の特殊関係者でないこと
適用期限は、相続開始日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却することが必要です[1]。たとえば2022年4月に相続が開始した場合、2025年12月31日までの売却が対象となります。
なお、2024年1月1日以降の譲渡については制度の一部が改正されており、相続人が3人以上いる場合の控除額が2,000万円に引き下げられるなど、適用条件が変更されています。最新の情報は税務署や国税庁のウェブサイトで確認することを強くお勧めします。
譲渡所得税の計算の仕組み

相続した土地を売却して利益が出た場合、その利益(譲渡所得)に対して税金がかかります。計算の仕組みを理解しておくと、特例の効果を把握しやすくなります。
基本的な計算式
譲渡所得は次の式で計算されます。
譲渡所得 = 売却価格 −(取得費 + 譲渡費用)
- 取得費:土地を取得したときの購入代金や取得に要した費用。相続によって取得した場合は、被相続人が取得したときの費用が引き継がれます。取得費が不明な場合は、売却価格の5%を概算取得費として使用できます。
- 譲渡費用:売却に直接かかった費用。仲介手数料、測量費、取壊し費用などが含まれます。
税率は所有期間で変わる
譲渡所得にかかる税率は、売却した年の1月1日時点での所有期間によって異なります[2]。実際の取得日からの計算ではなく、「売却した年の1月1日時点」で判定される点に注意が必要です。
| 区分 | 所有期間の判定基準 | 税率(復興特別所得税含む) |
|---|---|---|
| 短期譲渡所得 | 売却年の1月1日時点で5年以下 | 39.63%(所得税30.63%+住民税9%) |
| 長期譲渡所得 | 売却年の1月1日時点で5年超 | 20.315%(所得税15.315%+住民税5%) |
相続によって取得した土地の場合、所有期間は被相続人が取得した日から引き継がれます。つまり、被相続人が長年所有していた土地を相続した場合、相続後すぐに売却しても長期譲渡所得の税率が適用される可能性があります。
特例を適用した場合のイメージ
取得費加算の特例と3,000万円特別控除は、それぞれ課税対象となる譲渡所得を圧縮する効果があります。ただし、両方の特例を同時に適用することはできません[1]。どちらを選択するかは、相続税の額、売却価格、取得費などの条件によって異なるため、税理士への相談が現実的な判断につながります。
特例を適用するためには、確定申告の手続きが必要です。自動的に適用されるわけではなく、売却した翌年の確定申告期間(原則として2月16日〜3月15日)に申告を行う必要があります。
売却前に確認しておきたい:相続登記の義務化
土地を売却するためには、まず自分(相続人)名義に登記を移す「相続登記」が必要です。2024年4月1日から相続登記が法律上の義務となりました[3]。
相続によって不動産を取得したことを知った日から3年以内に相続登記の申請をしなければならず、正当な理由なく怠った場合は10万円以下の過料の対象となります[3]。2024年4月1日以前に相続が開始していた案件も対象となっており、経過措置として2027年3月31日までの申請が求められています。
土地を売却するには相続登記が前提となるため、まだ登記が済んでいない場合は早めに司法書士に相談することをお勧めします。
土地売却にかかる主な費用の目安

特例による税負担の軽減を考える前に、売却そのものにかかる費用を把握しておくことも重要です。費用は売却価格や物件の状況によって変わりますが、主な項目と目安は以下のとおりです。
| 費用項目 | 目安・計算方法 | 備考 |
|---|---|---|
| 仲介手数料 | 売買価格 × 3% + 6万円 + 消費税(上限) | 400万円超の場合の法定上限。これは上限であり、交渉の余地がある場合もあります |
| 印紙税 | 1,000円〜60,000円程度 | 売買契約書に貼付。契約金額により異なる |
| 登記費用(相続登記) | 登録免許税+司法書士報酬で数万円〜 | 固定資産税評価額の0.4%が登録免許税の目安 |
| 抵当権抹消費用 | 1〜3万円程度 | ローン残債がある場合。登録免許税+司法書士報酬 |
| 測量費用 | 30万円〜100万円程度 | 境界が不明確な場合に必要。土地の形状や規模により大きく異なる |
| 建物解体費用 | 木造で100〜200万円程度(規模による) | 更地にして売却する場合。3,000万円特別控除の要件として必要になることも |
売却価格帯ごとの仲介手数料の上限目安は以下のとおりです。
| 売却価格(目安) | 仲介手数料の上限(税込) |
|---|---|
| 1,000万円 | 約39.6万円 |
| 2,000万円 | 約72.6万円 |
| 3,000万円 | 約105.6万円 |
| 5,000万円 | 約171.6万円 |
これらはあくまで目安であり、実際の費用は物件の状況や依頼する専門家によって異なります。また、譲渡費用として認められる項目は、確定申告の際に譲渡所得の計算に算入できる場合があります。
- 売却価格は物件の立地・状態・市況で大きく変わります。
- 税制や法律は変更される可能性があります。
- 具体的な判断は不動産会社や専門家への確認が前提です。
売却の流れと手順
相続した土地を実際に売却するまでには、いくつかのステップがあります。全体の流れを把握しておくと、特例の適用期限に間に合わせるためのスケジュール管理にも役立ちます。
仲介での売却期間は一般的に3〜6ヶ月程度とされていますが、土地の立地や価格設定、市場の状況によって大きく変わります。特例の適用期限(相続開始から3年10ヶ月以内、または3年経過年の12月31日まで)を意識しながら、余裕を持ったスケジュールで進めることが重要です。
仲介と買取、どちらを選ぶか

相続した土地を売却する方法として、不動産会社を通じて買主を探す「仲介」と、不動産会社が直接購入する「買取」の2つがあります。特例の適用期限が迫っている場合など、状況によって選択肢の優先順位が変わります。
| 項目 | 仲介 | 買取 |
|---|---|---|
| 売却価格の目安 | 市場価格に近い価格が期待できる | 市場価格の70〜80%程度になる傾向がある |
| 売却期間の目安 | 3〜6ヶ月程度(物件・条件により異なる) | 最短1〜4週間程度 |
| 仲介手数料 | 発生する(売買価格×3%+6万円+消費税が上限) | 原則不要 |
| 契約不適合責任 | 売主に責任が生じる場合がある | 免責になることが多い |
| 向いているケース | 時間的な余裕があり、できるだけ高値で売りたい場合 | 特例の期限が迫っている、早期に現金化したい場合 |
どちらが良いかは、売却価格と売却スピードのどちらを優先するか、また特例の期限まで残り何ヶ月あるかによって変わります。「とにかく期限内に売却を完了させる必要がある」という状況では、確実性の高い買取を選ぶ判断も合理的です。
具体的なシナリオで考える:特例の使い分け
シナリオ1:築年数の古い家屋が建つ土地を相続したケース
昭和40年代に建てられた木造家屋と、その敷地(約100坪)を相続したケースを考えます。被相続人は亡くなる直前まで一人でその家に住んでいました。相続人は複数おり、相続税の申告も済んでいます。
この場合、相続空き家の3,000万円特別控除の適用条件(昭和56年5月31日以前の建築、被相続人の単独居住など)を満たす可能性があります。ただし、売却するには家屋を耐震基準に適合させるか、取り壊して更地にする必要があります。
取壊し費用が100〜150万円程度かかる場合でも、売却益が3,000万円以内であれば控除によって課税所得がゼロになる可能性があります。一方、取壊し費用や測量費用を含めた手取り額のシミュレーションは、売却前に不動産会社や税理士と確認しておくことが重要です。
また、相続開始から3年以内という期限があるため、相続登記や家屋の状況確認を早めに進めることが、この特例を活用するうえでの現実的な課題となります。
シナリオ2:農地や郊外の更地を相続したケース
地方都市の郊外にある更地(元農地)を相続したケースを考えます。被相続人はその土地に居住していなかったため、相続空き家の3,000万円特別控除は対象外です。相続税は一定額を支払っており、相続開始から2年が経過しています。
この場合、取得費加算の特例の活用が検討対象になります。相続税の一部を取得費に加算することで、譲渡所得を圧縮できる可能性があります。ただし、適用期限である「相続開始の翌日から3年10ヶ月以内」まで残り約1年10ヶ月しかないため、売却スケジュールには注意が必要です。
郊外の更地は買主が限られ、仲介での売却に時間がかかることもあります。期限を考慮すると、価格をある程度下げてでも早期に売却するか、買取を選択するかという判断が生じます。手取り額の差と税負担の軽減効果を比較したうえで判断することになりますが、この計算は個別の数値に依存するため、税理士への相談が実質的に不可欠です。
媒介契約の種類と特徴

仲介で売却を進める場合、不動産会社と「媒介契約」を締結します。契約には3つの種類があり、それぞれ特徴が異なります。
| 契約の種類 | 複数社への依頼 | 自己発見取引 | 業務報告義務 | レインズ登録 |
|---|---|---|---|---|
| 専属専任媒介 | 不可(1社のみ) | 不可 | 1週間に1回以上 | 5営業日以内 |
| 専任媒介 | 不可(1社のみ) | 可 | 2週間に1回以上 | 7営業日以内 |
| 一般媒介 | 可(複数社) | 可 | 義務なし | 義務なし(任意) |
専任系の契約は1社が責任を持って販売活動を行うため、手厚いサポートが期待できる反面、他社との比較競争が生まれにくい面があります。一般媒介は複数社が競って買主を探すため広い販路が期待できますが、各社の活動状況の把握が難しくなる場合があります。いずれの契約も期間は最長3ヶ月(更新可)です。
どの契約形態が適しているかは、土地の立地条件や売却の緊急度、売主の状況によって異なります。
よくある誤解と注意点
誤解1:特例は自動的に適用される
取得費加算の特例も相続空き家の3,000万円特別控除も、確定申告を通じて自分で申請しなければ適用されません。売却が完了したからといって自動的に税金が減るわけではなく、翌年の確定申告で必要書類を添付して申告することが必要です。特例を適用し忘れると、本来支払う必要のない税金を納めることになりかねないため、売却後の確定申告のスケジュールも事前に確認しておくことが重要です。
誤解2:査定価格が高い会社に依頼すれば高く売れる
査定価格はあくまで「この価格で売れるだろう」という不動産会社の見積もりであり、その価格での売却を保証するものではありません。極端に高い査定価格は、媒介契約を取るための「高預かり」である可能性もあります。査定価格だけでなく、その根拠となる周辺の取引事例や販売戦略の説明を確認することが、信頼できる不動産会社を選ぶうえで重要な視点です。
誤解3:相続した土地は取得費がゼロになる
相続によって取得した土地の取得費は、被相続人が取得したときの費用を引き継ぎます。ただし、被相続人がいつ・いくらで取得したかが不明な場合は、売却価格の5%を概算取得費として使用することができます。取得費が低いほど譲渡所得が大きくなり、税負担が増えるため、被相続人の取得に関する書類(売買契約書、領収書など)が残っていないか確認することは重要な作業です。
誤解4:相続登記は後回しにしても問題ない
2024年4月の法改正により、相続登記は義務化されました[3]。売却するためには登記が必要なうえ、義務を怠ると過料の対象にもなります。また、相続人が複数いる場合は全員の同意が必要になるケースもあるため、早めの対応が売却をスムーズに進めることにつながります。
特例を活用するうえでの判断ポイント

どちらの特例が有利かは個別の計算が必要
取得費加算の特例と相続空き家の3,000万円特別控除は、適用できる場合に両方を同時に使うことはできません。どちらが有利かは、相続税の額、売却価格、取得費、譲渡費用などの数値によって変わります。一般的には、売却益が大きいほど3,000万円控除の効果が大きくなる傾向がありますが、これはあくまで一般論です。
期限の逆算が重要
どちらの特例にも期限があります。相続開始から時間が経つほど選択肢が狭まるため、「いつまでに売却を完了させる必要があるか」を逆算してスケジュールを組むことが、特例を活用するうえでの基本的な考え方です。
複数の専門家との連携が前提
不動産の売却に関わる手続きは、不動産会社(売却・査定)、司法書士(登記)、税理士(税務申告)という複数の専門家が関与します。特例の適用可否の判断や具体的な節税効果の計算は税理士の領域であり、不動産会社がアドバイスできる範囲には限界があります。売却を検討し始めた段階で、早めに税理士に相談することが現実的な選択肢の一つです。
まとめ
相続した土地の売却には、通常の不動産売却にはない特例制度が関係します。取得費加算の特例と相続空き家の3,000万円特別控除は、いずれも適用条件と期限が定められており、確定申告による申請が必要です。
税負担を左右する主なポイントを整理すると、以下のようになります。
- 譲渡所得は「売却価格 −(取得費 + 譲渡費用)」で計算される
- 税率は所有期間5年超で20.315%、5年以下で39.63%(売却年の1月1日時点で判定)
- 取得費加算の特例は相続開始から3年10ヶ月以内の売却が要件
- 相続空き家の3,000万円特別控除は相続開始から3年経過年の12月31日までが期限
- 相続登記は義務化されており、売却前に完了させる必要がある
- 特例は確定申告で申請しなければ適用されない
ここから先は個別の事情で判断が分かれます。どの特例が適用できるか、どちらが有利かは、相続した土地の種類・立地・売却価格・相続税額などの条件によって大きく異なります。この記事で整理した内容はあくまで基本的な考え方の入口であり、具体的な税額計算や申告手続きについては、税務署や税理士への確認が不可欠です。
売却の進め方や費用の詳細については、さらに詳しい記事をご覧ください。
※本記事の内容は一般的な情報提供を目的としており、個別の物件や状況によって判断は異なります。具体的な税務・法務上の判断については、税理士・司法書士等の専門家にご相談ください。